ヒュンケルが継ぐ予定はなかったのではないか? 「鎧の魔槍」の考察 ~ダイの大冒険の”邪”考察~

アニメ分析

TVアニメ「ダイの大冒険」で1991年のアニメでは正式には辿り着かなかった「バラン編」が始まりました。ラーハルトが登場し、ヒュンケルとのバトルが繰り広げられた このタイミングで、連載当時からどうしてもボクが気になっていたことを考察します。

それはズバリ “ラーハルトの鎧の魔槍のデザインがシンプル過ぎないか ” ということです。
ボクが推測(邪推)するに
“元々「鎧の魔槍」は、ヒュンケルが使うことを想定せずに描きやすいデザインにされた”
のではないかと思うのです。

ヒュンケルが継ぐ予定はなかったのでは? シンプル過ぎる「鎧の魔槍」

両者を並べてみました。
左が「鎧の魔槍」の鎧化(アムド)状態、右が「鎧の魔剣」の鎧化(アムド)状態です。

…どう見ても、両者のデザインには差があるように思いませんか?
「鎧の魔槍」の方が圧倒的にパーツ数も少なく、そのパーツのデザインも圧倒的にシンプルなのです。
当時、ボクにはどうしても「鎧の魔槍」のデザインが、ヒュンケル 及び「鎧の魔剣」を引き立たせるために出て来たアイテムにしか見えなかったのです。

考察① パーツが少ないのは「コンセプトの違い」で理解できる

恐らく右の「鎧の魔剣」は防御重視のコンセプトで、ガッチリ体を覆うようにデザインされているのでしょう。防御力は高い代わりに重いのではないでしょうか。
対して左の「鎧の魔槍」はスピード重視のコンセプトで、覆う鎧は必要十分にとどめて、鎧が少ない分軽い。防御力は低い代わりにスピードが出せる、ということかと思います。

ヒュンケルは「力(パワー)がすごい」と評されています。
ラーハルトはアバン流最速の「海波斬」でも捉えられない程のスピードを身上とする戦い方です。
それぞれの持ち主の戦い方の特徴を反映した鎧化状態であり、それそれの武器自身もそういうヒュンケルとラーハルトの特性を見定めて、持ち主として認めたのだと思われます。

つまり、パーツの多い・少ないは戦い方のコンセプトの違いによるものと推察されるので、特に気になっていません。

では、どこが気になるのか…?

考察② 「鎧の魔剣」よりもシンプル過ぎる「鎧の魔槍」

気になって仕方がなかったポイント。それはズバリ「デザイン」そのものです。
気になるポイントを整理します。

「鎧の魔槍」は「鎧の魔剣」に比べて‥

① 形状がシンプル
② 立体感がない
③ 色数が少ない
④ ディティールが少ない
⑤ 結果、全体的に白い印象

① 形状がシンプル
一番、分かり易いのは「肩アーマー」です。同じ3枚のアーマーで構成されていますが、ヒュンケルの「鎧の魔剣」は割と複雑な形状で立体としての把握も難しそうです。「〇」のデザインが入っていたり、黒い部分もあったりと “凝った” デザインです。

比べて「鎧の魔槍」の肩アーマーは緩い三角形の鉄板を3枚重ねただけのようなデザインです。縁取りのようなデザインやリベット打ちのようなデザインもありせん。

あと、肝心の「槍」も、何の変哲もない “ただの槍” なんですよね…。「鎧の魔剣」の「剣」は、鍔の形状もカッコイイし、宝石が付いていたりと凝ったデザインなのに…。

② 立体感がない
一番、分かり易いのは「胸部アーマー」です。同じような “顔” をモチーフにしたようなデザインが施されています。ヒュンケルの「鎧の魔剣」は “目” に当たる部分が凹んでいていますが、ラーハルトの「鎧の魔槍」は “目” に当たる部分も線で描いたようなデザインで同一平面上にあるように見えます。

どちらに立体感があるかは一目瞭然です。

③ 色数が少ない
ラーハルトは下に着こんでいる服に色がついているので少しカラフルに見えますが、今回は「鎧部分」のみに注目します。細かい飾りや宝石のようなものにも色がありますが、メインとなる鎧部分の色数は「鎧の魔剣」は銀と黒、更に兜の飾りは金だったりで主に3色なのに対し、「鎧の魔槍」はほぼ銀のみです。

④ ディティールが少ない
上記の①~③の結果として、描き込みむ必要のある情報が少ないので、線が少ないです。形状がシンプルで立体的な要素も少ないから陰影等による演出上の描き込みも少ないのです。

⑤ 結果、全体的に白い印象
上記①~④の結果、作画が白っぽいあっさりした印象です。

単純に描き込みは多い程、力が入った絵に見えますので、どうしても作品における重要度の差が出ていたものと感じていました。つまり、ラーハルトはここで終るキャラクターだから、その鎧はヒュンケルに比べて簡素なもの良いだろう(というか、そうあるべき)、と考えられていたのではと思うのです。

ところが「鎧の魔槍」はヒュンケルの元へ

しかし、「鎧の魔槍」はヒュンケルに受け継がれることになりました。

!!!!

とても意外でした。ボクは「鎧の魔槍」はこの場限りのアイテムだからこその、簡素なデザインだと思っていたからです。

そして「鎧の魔槍」をまとったヒュンケルにも違和感を感じたのです。

ハッキリ言って “似合わない…!! “
ヒュンケルは「不死騎団」という最も禍々しい軍団の軍団長だった男です。キャラクター的にもどこかダークヒーロー的な印象があり、そういう意味でも「鎧の魔剣」のデザインが似合っていたと思うのです。

ところが「鎧の魔槍」は先述したデザインや線の描き込みの少なさも相まって、”白い” イメージでした。ダークヒーローというよりは、真逆の高貴なヒーローの印象です。

更にボクは「鎧の魔槍」はヒュンケルの引き立たせ役として、簡素なデザインが採用されていると思っていたので、この “簡素さ” が主役グループの一人であるヒュンケルのアイテムとしては物足りなさを感じていたのです。

これらの条件が絡みあって、ヒュンケルが「鎧の魔槍」を使うことに対しての違和感になっていたのです。ここでボクは「『鎧の魔槍』はヒュンケルが受け継ぐことを前提にデザインされたものではないのではないか」と思った訳です。

最終決戦には役不足⁈「鎧の魔槍」の新生!!

しばらくの間(11巻から25巻なので2年以上なのでかなり長かった)、この違和感を感じたまま「ダイの大冒険」を読んでいましたが、この違和感が解消され、ボクの推察が正しかったのではないか、と確信する瞬間が来ます。

最終決戦を前に「鎧の魔槍」はパワーアップされたのです。

「鎧の魔槍」に感じていた「① 形状がシンプル ② 立体感がない ③ 色数が少ない ④ ディティールが少ない ⑤ 結果、全体的に白い印象」という、およそ主役級のアイテムらしくないと思っていたこれらの項目全てをクリアするデザインでした。

この頃には、既にヒュンケルは “アバンの使徒の長兄役” という立ち位置が定着していたので、色数が少なく白くて高貴という印象も違和感なく受け入れられました。
何よりも、新しい「鎧の魔槍」の鎧化(アムド)した姿は、抜群にカッコ良かったのです。「鎧の魔剣」の鎧化(アムド)よりも線は少ないですが、“洗練されたデザイン” であると感じました。 

こうして長らく感じていた違和感を「”新生” 鎧の魔槍」が解消してくれたことで、ボクも最終決戦に向けて集中することができた訳ですが、同時にボクの推察が確信に変わります。

つまり「『鎧の魔槍』のデザインは主役級を前提にデザインされたものではなかったため、最終決戦には説得力が不足していると判断された。だから最終決戦を前に “強化” という名目でデザインが変更されたのだ」と確信したのです。

三条先生も「鎧の魔槍」を継がせるつもりはなかったのでは⁈

そもそも三条先生も思い付きで「鎧の魔槍」をヒュンケルに継がせたのではないかとさえ思えます。ストーリーは原作の三条先生が創ると思いますが、週刊誌のスケジュールはタイトでハードです。その時々の閃きも盛り込むことでいわゆるライブ感ある躍動的な話が生まれます。

三条先生も最初は継がせる前提ではストーリーを考えていなかったが、思いの他 “ヒュンケル VS ラーハルト” の戦いが盛り上がる中で、

“この二人を認め合った終生のライバルにしたら、もっと盛り上がるんじゃね⁈”
“同じ「鎧の〇〇」シリーズの武器だから、譲り受けたら更にもりあがるんじゃね⁈”


と閃いてしまったのではないでしょうか。

もしかしたら “ヒュンケル VS ラーハルト” の戦いのアンケート人気がすごく良かったのかもしれないですね。特に当時のジャンプはアンケート至上主義で活きの良いライバル作品もひしめいていた時期ですから、少しでもプラスにできる要素はどんどん採用したのではないでしょうか。

ただ、「鎧の魔槍」のデザインはもうどうしようもない…。

三条先生も思い付きでやってはみたものの、デザインの “役不足感” は常に感じていたのではないでしょうか。だからこそ、最終決戦を前に “強化=デザイン変更” という展開に持って行ったのではないかと思うのです。

ヒュンケルが継ぐ予定はなかったのではないか? 「鎧の魔槍」の考察まとめ

ここまでボクが感じてきたことを書いてきましたが、結論は次のようになります。

① 「鎧の魔槍」はヒュンケルが継ぐことを想定したデザインではなかった…
稲田先生がデザインするときにはこのことは三条先生から伝えられておらず、ヒュンケルに倒される引き立て役のアイテムとしてデザインしたため、意図的にシンプルなデザインにされた。(“意図的” というのは「ヒュンケルの引き立て役というストーリーを意識して」「(連載当時は作者の方も多忙であるため)労力がかからず描きやすい・作画しやすいものが良い」等々、色んな思惑があったものと思われる)

② 「鎧の魔槍」をヒュンケルが継ぐということを知った稲田先生は焦った…

いざ、ヒュンケルが受け継ぐことを知っても、今更、大きなデザイン変更はできない。故にこのデザインでカッコよく描くことを決意する。しかし、シンプル過ぎるデザインでは、どうしても最終決戦には “役不足” なのではないか⁈ と感じていた。

③ そもそも三条先生も思い付きで「鎧の魔槍」をヒュンケルに継がせた…
原作の三条先生も最初は継がせる前提ではストーリーを考えていなかったが、”ヒュンケル VS ラーハルト” の戦いが思いの他盛り上がり、アンケート人気も取れたので「『鎧の魔槍』を引き継がせたらもっと盛り上がるじゃん!!」と閃いてしまった。しかし、シンプル過ぎるデザインでは、どうしても最終決戦には “役不足” なのではないか⁈ と感じていた。

③ 最終決戦を前にどうしても “役不足感” を解消したかった三条先生が “強化=デザイン変更” というストーリー展開にし、稲田先生も一安心だった…
今までの悔恨の念と、最終決戦の盛り上げの景気付け。2つの目的を果たすべく、「”新生” 鎧の魔槍」には相当なデザイン検討が行われた。その結果、今までの「鎧の魔剣」「鎧の魔槍」の全てを上回る美しく洗練されたデザインの「”新生” 鎧の魔槍」が生み出された…。


最終的には大魔王バーンとの決戦に向けた盛り上がりの一環として、ボクの中の “「鎧の魔槍」デザインがシンプル過ぎる” という伏線は見事に回収されて、一層ストーリーにのめり込むことが出来たのです。逆に全て計算された演出だったのなら脱帽です。

ちょっと、失礼なことも書いてしまいましたが、これも全て「ダイの大冒険」が大好きであればこそ、と思って、笑って読み流してください。
ボク自身もコトの真相を求めているのではなく、こういう自由な考察・妄想も含めて、作品を楽しんでいるつもりです。

仮に、本当に “ヒュンケル VS ラーハルト” の戦いのアンケート人気が良くて “「鎧の魔槍」の引継ぎ” が生まれたのだとすると、アンケート制度はやはり有効なんだ、と感じますね。最近は作品の独自性や特色を尊重し、少し寛容になった印象のあるアンケート制度ですが、明確な指標があることでクオリティは上がるのだ、ということを改めて実感します。

TVアニメ「ダイの大冒険」。
ここから先のアニメは本当に初のアニメ化なので一層楽しみにしています。

名言(パワーワード)あふれる「ダイの大冒険」を観る・読む方法

「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」のアニメはU-NEXTで配信中です。
1991年の1作目のアニメも配信されています。丁度、今のアニメで放送中の「バラン編」が最終章になるので、見比べてみるのも面白いかもしれないです。
原作マンガも単行本の電子書籍を配信しているので、購入して観れますよ。※本ページの情報は2021年4月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。)

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「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司)は、1989年から1996年に週刊少年ジャンプで連載されたマンガです。単行本は最初のジャンプコミックスで全37巻。最近では「新装彩録版(豪華愛蔵版)」が発売中ですね。連載当時のカラーページがすべて再現されているようです。書下ろしの表紙も必見です。

ではまた、次回。

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